あぁ、徒然なるままに

私の趣味や日々の出来事についてを、自分の独断と偏見による、やや倒錯した文章で徒然なるままに書き記すブログです。

覗きこむ女

秋の夜長に、稲川淳二
と言うわけで、久々の怪談です。

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とある営業マンのお話。

男は出張で、短期間のウィークリーマンションに入る事になり、
当面のちょっとした荷物を運び入れた当日。
「さて明日から仕事」と、そろそろ寝ようとしていた夜中の12時。

玄関のドアの向こうから聞こえる、ゆっくりと廊下を歩くハイヒールの音。

「隣人か?」

しかしその足音は、ドアの前でピタッと止まってしまった。

「・・・?」

気になり、ドアののぞき穴から覗いてみると、
廊下の奥を向いたまま、少しうつむき加減に立っている
長い黒髪に白いワンピースの女が一人。

「・・・」

30秒程見続けるも、女は微動だにせず立ち続けたまま。

何故ドアの前で立っているのか判らず、

「ここの前の住人か?」

と思い、後ろを振り向いて部屋を見渡し、自分の荷物以外に特段何もないことを確認して
もう一度のぞき穴から外を覗いてみると、
見えたのは、のぞき穴から逆にこちらを覗きこんでいる女の顔。

「ひっ!?」

驚いてドアから飛び退くと同時に、ガリガリとドアを引っ掻きはじめる音。

その音に混じり、力無い女の声が。

「・・・開けてぇ・・・開けてよぉ・・・」

男は鍵のかかったドアに更にチェーンをかけ、部屋の中央まで走り逃げると、
何故か全ての電気が一斉に消え、部屋は闇に包まれた。

電気はすぐに点いたが、振り返って玄関に目をやると、
いつの間にか玄関の中には先程の黒髪の女が。

「!」

女はゆっくりと歩みを進め、近づいてくる。

しかしその女は、数歩進んだ所で止まってしまった。

男は余りの恐怖に女を凝視したままだったが、
歩みを止めた女と対峙したまま、何分とも何時間ともつかぬ時間が流れた。

再び部屋中の電気が消え、また点いた時には、
女の姿は消えてしまっていた。

男は緊張の糸が緩み、その場にへたり込むと意識を失ってしまい、
気が付くと夜が明けていた。

男はロクに寝られぬまま仕事に赴き、何とか帰っては来たものの、
昨晩の事もあり、やはりどうも部屋の居心地が悪く、落ち着かない。

そして再び夜中の12時。

ゆっくりとした足取りのハイヒールの音が聞こえ始めた。

そしてその足音がまた、ドアの前でピタリと止んだ。

「・・・またか・・・?」

流石に今回はドアの覗き穴から廊下を覗く気にはなれず、
部屋の奥にあるベッドに腰掛けたまま、固唾を呑んで玄関の様子をうかがう男の頬を、冷や汗が伝う。

「・・・?」

昨晩とは違う展開に戸惑いながら、ゆっくりと周りを見回してみると、特に何も変化は無い。
恐る恐る玄関の方を見てみるも、女の姿は見当たらない。

「今日は何もないよな・・・?」

ホッとして気が緩んだ途端、また昨晩のように部屋の電気が消えてしまった。

「!」

電気はすぐに点いたが、不穏な空気に不安を覚え、部屋の中を見渡した瞬間。

男は見てしまった。
壁にかかった鏡越しに、自分の後ろに立つ、昨晩の女の姿を。

「うわあっ!」

その場を飛び退いて振り向くも、そこにはもう女の姿は無く、ただ白い壁があるだけ。


男はその晩、電気とテレビをつけたまま、壁を背にして夜を明かした。


「このままじゃ身が持たない」

そう思った男は、翌日、職場の上司に電話をかけた。

「借りてるウィークリーマンションなんですが・・・」
「・・・A町のか?」
「そうです。」
「もしかして、白いワンピースの女か?」
「知ってるんですか!?」
「知ってるも何も、俺も何回も見たよ。 
 寝てるときに金縛りにあって、上から覗き込まれたんだよ。
 うわぁ~、よりによってそこか・・・」
「知ってるなら、何で話してくれなかったんですか!?」
「話したさ。前に出張から帰って、総務課に。
 『あそこは『出る』から、出張での賃貸手配は止めてくれ』って。
 まさかまたそこに手配になってるとは、俺も知らなかったからなぁ。」
「何とかならないんですか?」
「ならんなぁ、今から手配の変更は。あと数日なんだろ?」
「そうですけど・・・」
「何とか頑張れないか?」
「イヤです。身が持ちません。」
「後は俺の時みたいに、別のホテルに泊まるしかないが・・・自腹だけどな。」
「自腹でいいです。」

男は、ウィークリーマンションから少し離れたホテルに泊まるべく、
身の回りの物だけを鞄に詰め、いざ部屋を出ようとしたその時。

玄関先に掛けられていた小さな額絵が、少し傾いていることに気が付いた。

傾きを直そうと、その額に手をかけた瞬間、額は手から滑り落ち、
その額の裏側には、魔除けの御札が何枚も貼られていた。

「うわ、何だこれは・・・」

そこで男は、ふと思い出した。
女が玄関から入ってこようとしたときに、ここで立ち止まったことを。

「・・・もしや。」

男はふと思い立ち、部屋に戻ってあちこち調べてみた。

壁にかかっている鏡の裏。
ベッドのマットレスの下。
小タンスや机の引き出しの裏。
冷蔵庫の奥。

一見すると判らない、裏と言う裏の全てに、魔除けの御札が貼られていた。

「何だよこの部屋!」

男は逃げるように部屋を出て、残りの数日をホテルで過ごした。

出張が終わって、ウィークリーマンションの部屋を引き上げに男が戻って来ると。
床、机の上、テレビの上、ベッドの上、荷物の上、果てはカバンの中。
女のものと思しき長い髪が、いたるところに散乱していた。

男は荷物をまとめ、再び逃げるように部屋を出ようとしたそのとき。
微かに、かすれたような女の声が聞こえた。

「また私を置いていくの・・・?」


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以上、オールフィクションでお送り致しました♪



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