夏だ!
スイカだ!
稲川淳二だ!
と言うわけで、久々に戻ってまいりました。
怪談です。
とは言え、今回は余り怖くはありませんが・・・
実際に私が体験した話です。
以前、別の仕事をしていたときの話。
職場の上司である事務所の所長が、どうもカゼをこじらせたのか、
頻繁に咳をしていまして。
その咳も、どうも体の奥からこみ上げるような、変な咳でした。
ある日、職場の先輩のTさんと私が、仕事も上がって帰ろうとしていたとき、
所長は辛そうに、変わらず変な咳をしていました。
Tさんは、
「所長、その咳、病院に行ったほうが良いですよ。」
と声をかけ、帰って行きました。
私も後に続くように事務所を出ようとしたのですが、
ふと咳き込んでいる所長の姿を見たときに、何とも言えない寂しさと胸騒ぎを覚え、
気のせいか、所長の影・・・と言うより「存在」が、まるで透けるように薄く見えた気がしたのです。
所長は体格も良く、存在感も人一倍あったのですが、私が見たそのときだけは何故か、
座っていた席の後ろの壁にそのまま吸い込まれて行きそうな感じが・・・
私も心配になって、
「所長、病院に行ったほうが良いですよ。」
と声をかけようかと思いましたが、Tさんがもう既に言っていることを
私がわざわざなぞり直しするのもどうかと思い、特に何も言わずに職場を後にしたのですが・・・
私の寂しさと胸騒ぎは、現実のものになってしまいました。
忘れもしません。
存在が薄く見えた、その数日後の9月30日。
所長は職場で倒れ、そのまま帰らぬ人となってしまいました。
原因は、くも膜下出血。
おそらく変な咳による急激な血圧上昇で、脳内出血が起きたのでしょう。
検察官が事務所にやって来て、事件性が無いかどうか、
所長が倒れていた場所の現場写真を撮って行ったのを、今でも憶えています。
その場所も、私が「存在が薄く見えた」と言う壁の前でした。
私がどうにか出来ることではありませんでしたが、
あの時、私も一声かけておけば・・・と、
今でもその「一言」をかけなかったことが悔やまれます。